これまでに示した順序の性質を用いることで,2つの自然数の大小比較ができることが分かります.
◇三分律・反対称律◇
$x,y$ を自然数とする.
- ① $x<y,x=y,x>y $のうち$1$つだけが成り立つ [三分律]
- ② $x≦y,x≧y $のとき,$x=y$ [反対称律]
三分律は,$2$つの自然数の大小比較ができることを表します.感覚的には明らかですが,証明はそれほど簡単ではありません.まずは,少なくとも$1$つが成り立つことを $y$ についての数学的帰納法で証明します.$y=1$の場合は $x≧1$ であることから $x=y$ または $x>y$ が成り立ちます.
- (i) $y=1$ のとき,$x≧1$ であるから,$x=y$ または $x>y$ である.
$y=k$ での成立を仮定し,$y=k+1$ での成立を示します.つまり,「$x<k$ または $x=k$ または $x>k$」を仮定し「$x<k+1$ または $x=k+1$ または $x>k+1$」を示します.
- (ii) $y=k$ のとき,
「$x<y$ または $x=y$ または $ x>y$」⋯㋐
が成り立つと仮定すると,
$x<k$ または $x=k$ または $ x>k$
$x<k $のときは,$x+1<k+1 $であり,$x<x+1$ と推移律から $x<k+1$ であることが分かります.$x=k$ のときは,$x=k<k+1$ が成り立ちます.$x>k$ のときは,$x≧k+1$ なので $x=k+1$ または $x>k+1$ です.
・$x<k$ のとき,$x<x+1$,$x+1<k+1$ であるから,$x<k+1$ である.
・$x=k$ のとき,$x+1=k+1$ であるから $x<k+1$ である.
・$x>k$ のとき,$x≧k+1$ であるから $x=k+1$ または $x>k+1$ である.
よって,$y=k+1 $のときも㋐は成立する.
次に,同時には成り立たないことを証明します.その際に$x+y≠x$ を用いるので,準備としてこれを $x$ についての数学的帰納法で証明します.
まず $x=1$の場合の $1+y≠1$ を示しますが,$1+1=2,2+1=3,⋯$はいずれも$1$と異なる数なので,$y+1≠1 $が成り立ちます.
自然数 $x,y$ に対し,$x+y≠x$ ⋯㋑ が成り立つことを証明する.
(a) $x=1$ のとき,$x+y=y+1≠1$ である.
$k+y≠k$ を仮定して $(k+1)+y≠k+1$ を示します.($k+1)+y=k+1 $とすると,$(k+y)+1=k+1$ なので,簡約法則から $k+y=k$となり仮定に反するので $(k+1)+y≠k+1 $が成り立ちます.
- (b) $x=k$ のとき㋑が成り立つと仮定すると,$k+y≠k$ である.
ここで,$(k+1)+y=k+1$ と仮定すると,$(k+y)+1=k+1 $
より,$k+y=k $となり仮定に矛盾する.
よって,$(k+1)+y≠k+1$ であるから,$x=k+1$ のときも㋑は成立する.
本題の同時には成り立たないことを証明します.$x<y$ と $x=y$ が同時に成り立つと仮定すると,$x<y=x$ であり,$x+n=x$ となる自然数 $n $が存在することになり㋑に反します.よって,$x<y $と $x=y$ は同時には成り立ちません.他の場合についても同様です.
$x<y $かつ $x=y $と仮定すると,$x<x $であるから $x+n=x$ となる自然数 $n$ が存在するが,これは㋑に矛盾する.よって,$x<y$ と $x=y$ は同時には成り立たない.
$x=y$ かつ $x>y$ と仮定すると $x>x$ ,$x<y$ かつ $x>y$ と仮定すると推移律から$ x<x$ となるが,同様に㋑に矛盾する.よって,$x=y$と $x>y$,$x<y$ と $x>y$はともに同時には成り立たない.
以上より,$x<y$,$x=y$,$x>y$ のうち1つだけが成り立つ.■
②は①からすぐに得られますが,証明は練習問題とします.
練習問題
②を証明せよ.
解説
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