これまでに示した順序の性質から,自然数は小さい順に $1,2,3,⋯$ であることが分かります.このことに注目することで,数学的帰納法の仮定を強めることができます.
◇累積帰納法◇
自然数 $n$ に関する性質 $P$ について,
- ㋐ $n=1$ のとき $P$ が成り立つ.
- ㋑ $n=1,2,⋯,k$ のとき $P$ が成り立つと仮定すると,$n=k+1$ のときも $P$ が成り立つ
の$2$つが成り立つとき,$P$ はすべての自然数 $n$ で成り立つ.
通常の数学的帰納法では $n=k$ のみを仮定しますが,累積帰納法では $n=1,2,⋯,k$ のすべてを仮定します.累積帰納法も数学的帰納法と呼ばれることが多いです.
自然数は小さい順に $1,2,⋯$ なので,$P$ が成り立たない $n$ があると仮定すると,$P$ が成り立たない最小の $n$ が存在します.これに注目することで,累積帰納法は次のように証明できます.
㋐,㋑の2つが成り立つとき,ある自然数 $n$ で $P$ が成り立たないと仮定し,$P$ が成り立たない $n$ の最小値を $n=m$ とする.
㋐より $m≧2$ であり,$n=1,2,⋯,m-1$ で $P$ は成り立つから,㋑より $n=m$ のときも $P$ が成り立つことになり矛盾する.■
§3で「すべての自然数が素因数分解できる」ということを証明しますが,その証明では累積帰納法を利用します.
練習問題
自然数 $n$ に関する性質 $P$ について,
- ㋐ $n=1,2$ のとき $P$ が成り立つ
- ㋑ $n=k,k+1$ のとき $P$ が成り立つと仮定すると,$n=k+2$ のときも $P$ が成り立つ
の$2$つが成り立つとき,$P$ はすべての自然数 $n$ で成り立つことを証明せよ.
解説
前の記事へ [1-8] 三分律・反対称律 | 次の記事へ [1-10] 自然数の乗法 |
本シリーズの記事一覧へ 厳密に学ぶ高校数学 一覧 | |
トップページへ 数学マスターに俺はなるTOP |